修羅の日記(公開試運転中)

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ポケット・サイズの鉄道古書3冊

■3冊ともたいしてレアなものではないですけれど、ヤフオクで買った写真の本が届きました。ポケットサイズ、「汽車の本」は概ねB6サイズ、オリジナル・サイズで、これまたオリジナルの段ボールのボックス入りという凝ったもの。あとの2冊は文庫サイズ、「大判の本を寝ころんで読むのは疲れる。」と前に書いたことを見透かされたようなタイミング。
■届いた本は3冊とも昭和48年(1973年)に印刷されたもので、古書独特の臭いはしますが、ページの角も立って40年近く前の本とは思えない状態の良さ。

(1)「中村由信の汽車の本-SL総集編」 矢来書院 昭和48年刊 定価1,000円
■昭和48年当時はすでに鉄道趣味から離れ、ロック・ギターに熱中していましたので、この本のことは知りませんでした。
■ 著者の中村由信さんはプロの写真家で、話題のオリンパスの広告ページに詳しい紹介と作品があります。この方のスナップ写真の切れ味とユーモアのセンスはすごい。特に「海女」の写真にはドキドキしながら見入ってしまいました。
「中村由信のスナップフォトの決定的瞬間」オリンパスHP:http://fotopus.com/photo_stories/nakamura/
オリンパスもこういう良質なコンテンツを提供していたのですね。そういえばOM-10とズイコーレンズ、デジカメのカメディアを愛用していた時もあるし、最近は胃カメラにもお世話になっているし・・。

■サイズが小さいながらも写真は良いものが収められていますが、それよりも中村さんの蒸気機関車趣味を書き連ねた記事が、SLに対する愛情が感じられて面白い。例えば模型については「SL記念館ナカムラ機関区」という記事の中で、もともと子どものころから模型が大好きで、SLの写真を撮り始めたのは「SLの精密模型」を作るためと書いています。
■「SL撮影全科」という記事の出だしはとても面白い。「SL撮影は大変むずかしい。何より困るのは目の前にSLが来た時にはシャッターを押し終わってないと、あっと思った瞬間に通り過ぎてしまうからです。しかも、もうすぐこの日本から、SLは全部消えてしまうのだ。」と思わず笑える話に始まり、中村流の撮影法を伝授してもらえる。この後には全国の機関区の住所と電話番号が書かれてあり、訪問のアポ取りまでできるようになっている。今やったら断られるのがオチだろうね。
■写真家が装丁まで凝って作った「汽車の本」。楽しい!

(2)「鉱山(ヤマ)のSLたち」信賀喜代治 みやま文庫 昭和48年刊 定価180円
■北海道の炭鉱鉄道を紹介する文庫サイズのガイドブック。カバーの転車台に乗る美唄鉄道4122とそれを大判カメラで撮影する若者二人のカラ―写真が面白い。
■19の専用鉄道・専用線が紹介されていますが、刊行の時点で実際に走る蒸気機関車が撮影できるところは、夕張鉄道などに限られていたはず。SLどころか炭鉱そのものが急激に数を減らしていた時代。本来は読者が撮影に赴く時にポケットに入れていく「ガイドブック」が刊行の目的であったのでしょうが、そうではなく「記録」となってしまったことは著者としても残念だっただろうな、と感じます。
■「記録」としては、全部で62ページですので、例えば上芦別などの扱いは極めて小さい点、写真はあまり鮮明ではなく他の資料とは比べようがない等の難点はありますが、北海道の炭鉱鉄道をさらっと知る手軽な本としては良い本でした。何より定価は¥180です。

(3)「蒸気機関車広田尚敬 保育社カラ―ブックス 昭和43年刊(昭和48年第三刷) 定価280円
■とても有名な本ですし、3冊のうちでは「おまけ」だと思っていたのですが、昭和43年当時、田舎の書店でも手に入りましたので、中学生のころ持っていました。擦り切れてカバーも表紙が無くなりぼろぼろになるまで繰り返し読んでいました。何せ蒸気機関車のカラ―写真がこんなにたくさん見れて280円で買える本なんて、他になかった。
■広田さんが撮影されたB6は2650で、後に「屋根付機関車」として有名になる機関車の屋根が付く前の貴重な写真らしいのですが、ここに書かれた「ペンケ」の意味が「辺渓」であることは中学生には解らず、石原産業のB6の項でも書きましたが、恥ずかしながら解ったのは最近です。
■CやDの付く蒸機の写真が見たくて、当時この本を買ったと思うのですが、現在の自分のアメロコ、古典機好き、ナロー好きの原因のひとつは、ひょっとしたらこの本かもしれないと、今更ながら気が付いてしまいました。光栄なことに、案外、広田さんの好みとシンクロしたのかも。

【追記】下のコメントにも書かせていただいたように、「蒸気機関車」の著者は広田尚敬さんですが、巻末の蒸気機関車についての文章は三品勝暉さん、機関車一覧表は臼井茂信さんとすごいメンバーが文章や資料を寄せていたというのは、中坊の時は、当然どこの誰だか知らなかった。カラー・ブックスは手に入れやすく「入門書」として自分は読んだわけですが、「入門書」にしてはハイレベルすぎるわけだ、と今更ながらに知りました。保育社のカラーブックスの鉄道関係はとても充実していましたね。
■あららぎさんがコメントに書かれているように、最近は、いつのまにか情報の質が劣化してしまったようにも感じます。受け手の咀嚼する力によって価値が異なるのはご指摘の通りです。文庫サイズの「蒸気機関車」に送り手も本気で取りかかっていた。また情報の受け手もそうで、関心あることには、一枚の手紙や新聞の切り抜きまで、大事にとっておいた記憶が誰にもあったと思います。自分を振り返れば、残念ながらそのころのもので手元にある鉄道本は「レイアウト全書」と「バインダーに綴じた1969年のTMS」だけ、両方ともここで紹介した3冊とは違い、あちらこちらが千切れたり、破れたりぼろぼろです。(2011-11-11)